はじめに
「SE版 学問のすすめ」もようやく第五編までたどり着きました。
本編は福澤諭吉先生が、慶應義塾で新年の挨拶をしたときの言葉のようです。
今回は、SEから見てお客様、システムを導入するユーザーについての話に置き換えてみました。
システムを効果的に使うための秘訣とは??
本編も少し難しい
「SE版 学問のすすめ」は、元々若手SE向けに書いたものなので、初編から三編まではなるべく読みやすく書いたが、第四編は若干難しかった箇所もあると思う。
また、本編である第五編も中堅SE向けになっているため、難しい箇所が何箇所かあるかもしれない。
六編からは再びわかりやすく書いていきたいので、ご了承いただきたい。
明治七一月一日の詞
我々は今日、慶應義塾で明治七年の正月を迎えることができた。明治の年号は我が国が独立した特別な年号である。
本塾は、独立のための塾だ。
独立の塾で独立の年を迎えたことは、甚だ喜ばしいことである。
しかし、喜びの日が存在するということは、反対に悲しみの日も存在することだ。
独立が失われた時、悲しみの日が訪れるということを決して忘れてはならない。
日本が滅びなかった理由
我が国は長年に渡り、内戦を繰り返し、政権も移り変わっているが、今日に至るまで国自体がなくなったことはない。
それは、鎖国していたために、外国との関与がほとんどなかったからである。
平和と言っても、国内に閉じた平和であり、かつての戦争は国内での内輪もめに過ぎなかった。
諸外国と独立を賭けて争ったこともないのだ。
例えるなら、子供が家族だけに可愛がられて、まだ他人とコミュニケーションをとったことがないという状態に等しい。
我々は、外国との関わりについては、初心者だということを知らねばならない。
IT導入よりも大切なこと
現在、多くの企業が、重要な経営課題として、「グローバル」という言葉を挙げる。
欧米だけでなく、アジア諸国の発展も著しい、グローバルなマーケットで戦っていく力が必要だ。
企業の力というものは、形だけでは判断できない。
ERP、SCM、SFA、ナレッジマネジメントなどさまざまなITインフラが導入されているとしても、それは単なる形に過ぎない。
形を整えるのは対して難しくない。設備を買ったり、コンサルを雇ったりと、金をかければできることである。
それ以上に本当に大切なものが別に存在する。
それは形を持っていない。
目に見えないし、耳にも聞こえない。売り買いもできないし、貸し借りもできない。
そのくせ影響力が大きく、これがなければ上述の投資は全く意味をなさない。
それは何かというと、社員の独立の精神である。
変革の意志が生まれない理由
企業はこぞってITを推進してきたが、未だに変革の風土が生まれていない。
たまたま変革の必要性を知ったとしても、リスクを怖れて何もやらない。
結局のところ、変革の意志がなければ、ITは無用の長物となるのだ。
変革の意志が生まれない我が国の風土は、数千年に渡って、「お上」が何もかもお膳立てしてきたことが原因だ。
軍備から文化、工業から商業まですべて政府が関与してきた。
そのため、国民には受身の姿勢が染み付いて、自ら国を変えようという意識はなくなっていた。
さらに最近に至っては、さらに状況が悪くなっている。
物事は、常に動き続ける。進むものは進み、引くものはどんどん引いていく。
現在の日本企業は、ITの導入は進んでいるが、社員の気力は日に日に減衰している。
例えば、江戸時代は幕府は力で民衆を威圧してきた。
民衆は、心から幕府に服従していたのではなく、自分の力が幕府と比べて劣っているために、いやいや、形だけ服従する振りをしていたのである。
今の会社は、社員に対し至れり尽くせりのサービスを提供している。
毎日決まった時間に出社し、決まった時間まで言われた通りの仕事をしていれば、一生を保証してくれるのだ。
さらに、税金の支払い。社宅。ローン。老後の蓄えまで面倒を見ているところもある。
かつての政府が民衆を力で押さえつけていたのに対し、今の会社は、社員の依存度を高めている。
社員はこう言うだろう「辞めたいんだけど、子供のことを考えるとね」「老後を考えるとね」と。
昔の政府は、民衆を力で押さえつけていたが、今は心を挫いている。
ITの導入により、仕事の質は大きく変わる。
煩わしい紙での決裁が簡潔になるなど、事務処理の手間は大きく省ける。
また、社内の知識も共有され欲しい情報がいつでも簡単に取り出すことができるようになった。
これにより、付加価値の高い仕事へシフトするべきなのに、環境の変化について行けず、ただただ感心するばかり。
外に打って出ようという気力を出す前に萎縮してしまっている。
これでは、ITは全く生きない。
「勇力」を持って立ち向かえ!
社員は付加価値を追求し、切磋琢磨し、羨望し、企業として新たな価値が生まれた時は、皆でそれを祝福する。これが理想の姿だ。
つまりITは、企業が新たな価値を生み出すための道具に過ぎず、使う側の意志によって価値が生まれるのだ。
しかし、多くの企業が使いこなせていないのが現状だ。
現状、あっと驚くような先進的なビジネスを思い付けないのか、会社の将来について真剣に考えていないのか、世間に流され、会社に依存しているだけなのかは知らないが、皆事を荒立てることなく、目の前の事務作業に奔走し、疲弊している。
傍らから見れば、滑稽に見えるが、社内では皆がそれが当たり前だと思っているし、逆に会社を良くしようという活動を小馬鹿にしているケースさえありうる。
特に誰が悪いというようなことではないが、会社にとっては大きな危機だと言わざるを得ない。
我々、慶應義塾は、幸いにもそのような災難に陥ることなく、独立を維持している。
しかし、世の中の流れというのは相当力が強く、ややもすると我々の独立も簡単に失われてしまいかねない。
その流れに立ち向かう「勇力」が必要だ。「勇力」は読書だけで培われる物ではない。
読書は、学問の手段の一つに過ぎない。
学問は「勇力」を培うための手段の一つに過ぎない。
実践しなければ「勇力」は育たないのである。
我が同志で、「勇力」を身に付けた者は、貧しさに耐え、困難を乗り越えてイノベーションを起こす。
そういう中で生まれた発明やビジネスが会社を変え、社会を変え、世界に通用する力となるのだ。
これから数十年後の新年の挨拶の時には、今日の事を思い出し、さらなる飛躍を祝えることを切に願う。
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